東京地方裁判所 昭和56年(ワ)455号 判決 1983年2月28日
原告
株式会社山崎工務店
右代表者
山崎秀雄
右訴訟代理人
八塩弘二
被告
有限会社三誠建設
右代表者
伊藤和子
被告
伊藤和子
右被告両名訴訟代理人
百瀬和男
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金一七六四万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年三月六日から右完済に至るまで年九分五厘の割合による金員を支払え。
二 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一原告と被告有限会社三誠建設とが昭和五二年一〇月一六日、被告会社を注文者、原告を請負人とし、東京都大田区東雪谷一丁目一一番三号での建売住宅六棟(A、B、C、D、E、Fの各棟)の建築工事請負契約を、工事着工時昭和五二年一〇月一六日、上棟同年一一月一八日まで、完成引渡しはA、B、C、E棟については同年一二月末日、D、F棟については昭和五三年一月二〇日、報酬三七五〇万円と定めて締結したこと、被告会社が八六万円の追加工事を注文したこと、昭和五四年三月五日までに報酬のうち一九〇〇万円を支払つたこと、被告会社が昭和四八年五月一五日にその代表取締役である被告伊藤和子によつて設立された資本金二〇〇万円の有限会社であることは、当事者間に争いがない。
二<証拠>によれば、「被告会社は商業登記簿上その所在地を東京都品川区小山六丁目一七番三号と定めたが、設立時からそこには事務所、店舗、営業所等、営業の拠点となるべきものを置いたことはなく、事務所は、当時の被告伊藤の住居があつた東京都大田区山王一丁目四二番一〇号におき、もつぱらそこで営業活動を行つて来た。被告会社の出資者は、被告伊藤とその監査役をしていた津田昭一との二人であるが、津田は出資者としての名義を貸与したものにすぎず、実質上の出資者は被告伊藤だけであり、他の取締役である新川アケミも名義だけのものにすぎない。更に、被告会社の従業員も、被告伊藤の妹と娘の二人だけで、その二人も、臨時的に働いていたものにすぎず、監査役の津田も、本業の税理士業のかたわら時折り被告会社の経理をみていたもので、被告会社の業務活動は、被告伊藤ひとりの手によるものであつて、原告も、被告会社と本件建物建築工事請負契約を締結する際、被告会社の資力よりも、むしろ被告伊藤の個人的な信用力を信頼して契約を締結した。」ことが認められる。
右事実によれば、被告会社は、形式的な法人格を有してはいても、その実体は、被告伊藤の個人的な信用力、手腕に負い、伊藤個人にほかならず、当初からその法人格は、形骸にしかすぎないものと推認されるのであつて、被告伊藤も、被告会社と各自、本件請負契約から生じた債務を履行すべき義務があるといわなければならない。
もつとも、法人格の否認の判断にあつては、法人格が否認されるべき会社が有限会社である場合には、株式会社と異なつて人的色彩が濃いのであるから、株式会社の法人格を否認するときとは別段の考慮をすべきであることは、当然であるが、前記認定のとおり被告会社は、すべての面において被告伊藤ただひとりの手によつて経営され法人としての機能は全く停止しているのであるから、たとえ有限会社であつても、その法人格は、形骸化しているものとして否認されるべきものということができる。<以下、省略>
(榎本恭博)